2012年4月18日水曜日

日本が経済成長するには?2 〜金融政策、医療・介護、格差是正〜


 日本が経済成長するには? 〜輸出、製造業信仰からの脱却〜の後に読んだのがあって、あと少し早ければまとめられたのに……と思っていたら、余裕でたくさん溜りました。

 長いですけど、この手の話は不人気なので回を重ねないように、無理やり詰め込みます。

 まず、超党派議員が開いたシンポジウムで鳩山元総理がぶち上げた日銀法改正論(登録要、ダイヤモンド・オンライン、2011年12月1日 高橋洋一)では、

為替を何とかしたのは為替介入でなく、金融政策だ。円高は、円とドルの量を相対的にみて円が少なくドルが多くなり、少なくなった円の価値が高くなる現象だ。逆にいえば、円を刷れば簡単に円安になる。直接、日銀に指示する訳にいかないので、政権内での理解者である竹中平蔵経済財政担当相や中川秀直自民党幹事長らにお願いして、デフレ脱却という大義名分で日銀に何とか協力してもらうことにした。

 円を刷るってのは何でしょう?理論は別として、実証として納得が行かないんですけどね、これ。

 次の成長の止まった日本:財政政策も金融政策も効かない(日経ビジネスオンライン 波頭 亮 2011年9月16日)では、その金融政策を否定しています。

"一般に景気対策には、公共事業や減税を中心とする財政政策と、金利の調整やマネーサプライをコトロールする金融政策という2つのアプローチがある。

 経済政策におけるこれら2つの方法論の有効性については、従来から活発な議論がなされてきた。財政政策派は「金融政策は物価の安定には有効だ。しかし、景気対策や経済成長に対しては大きな効果は見込めない。景気を刺激して経済の成長エンジンを回すには財政政策こそが有効である」と主張する。一方、金融政策派はこう反論する。「潜在成長率の高かった高度成長期には財政政策の有効性が確認できた。だが、近年では公共投資の乗数効果は小さく、財政政策の効果はきわめて小さい。むしろ財政の赤字拡大を加 速させる副作用の方が大きい。こういう状況では金融政策こそ景気対策の本命である」。

 この議論は、双方ともに実証データを提示しつつ、ノーベル賞級の経済学者の言説を援用しながら90年代以降延々と続いてきた。そして、日本政府がどちらの経済政策を採用してきたのかと言うと、あれもこれもと両方やってきたのである。

 財政政策については、1995年以降、公共事業の積み増しや各種補助金の支給、減税特別措置などで230兆円にも及ぶ財政出動を実行してきた。金融政策についても、世界が驚いた世界初のゼロ金利政策を2000年に打ち出した。それでも足りないとなると、量的緩和策によって可能な限り市中にマネーを流し込んできた。日本政府は考え得る限りの景気対策をやってきたのである。"

 そして、残っ� �のは「約1000兆円にも達した国債発行残高とこれ以上金利を下げようのない状態の長期金利相場(0〜1%)」でした。

"これは、財政バランス的にも金利相場的にも、もうこれ以上の手立てを打ち出す余地がない"追い込まれた"状態だと言えるであろう。"

"実はこの間に行われた財政政策と金融政策にはある共通点がある。それはどちらも短期的な景気回復を狙った対策だったという点である。これらの経済政策は、国民経済の潜在成長力がある程度高い状態で、何らかの障害や不調があった場合には有効である。"

"しかし国家の人口がピークアウトして国民経済の需要そのものが成熟している場合には、どちらも十分な効力を持たないのである。"

"端的に言えば、1%前後という低金利の国債以上に有望な投資先が見当ら ないというのが、今の日本の実体経済の実力"

 一番問題なのは人口構造。対策は次回だそう。

 で、読んでなかった対策を見ると、病院と介護施設の充実が日本経済を浮揚させる 実需のある分野にカネとヒトを投入することが経済の基本(要登録 日経ビジネスオンライン 2011年9月30日 波頭亮)というもの。

 タイトル見て何となくがっくりしましたが、主張は以下。

 もし、今の日本において国民全員が生活に満ち足りていて、何も需要が見当らないのならば、経済の成長は不可能かもしれない。しかし国民全員が本当に満ち足りているのならば、そもそも経済を成長させる必要はないのだから、経済政策の心配をする必要は無いことになる。

 こう考えると、答えの方向性が見えてこよう。日本経済を活性化させるには"満たされていない需要"を探せばよいのである。ニーズの無い分野にカネを注ぎ込んだりスジ悪の刺激策を打つのではなく、国民が満ち足りていない分野=実需の存在する分野に対して刺激を与え、実体経済の活動として現実化すればよいのである。

(中略)

 何に対して不満と不安を抱いているのか? 老後の生活に対する不安、老後の医療や介護に対する不満である。この不満と不安は国民の声を集めたアンケート(「国民生活に関する世論調査」)に明らかである。2010年のアンケートによると、国民が最も不満と不安を感じている項目は社会保障の充実と高齢化対策である。

(中略)


"人格障害:診断の管理"

 高速道路を伸ばし、地方空港を開設しても、その結果がガラガラの高速道路と、空席の目立つ1日2〜3便のフライトでは、経済効果は小さい。建造のための鉄やコンクリートの消費と、建設工事従事者の賃金にお金が落ちて、それで終わりである。「こんなことなら最初からお金を労働者に直接配った方が経済効果は大きい」と揶揄されるゆえんである。

 一方、医療施設や介護施設を造れば、多くの利用者を見込める。当然、そこに医療・介護サービスを提供するための継続的な雇用が生まれる。そして利用者が対価を払い、働く人は収入を得ることができる。これこそが実体経済の活性化なのである。

 経済を活性化させるための大原則は、「実需のある分野に資源(カネとヒト)を投入して、財・サービスを生産し、需要を満たすこと」である。この基本的な原則に添った経済政策さえやれば、冷え切った国民経済のエンジンは回り始め、財・サービスの生産と取り引きは活発になり、経済成長が実現する。さらには、現在多くの国民が感じている不満や不安が緩和され、国民が感じる生活の豊かさや幸福度が上がることになる。

 このシンプルな方法論こそが、今の日� ��経済が抱えている問題のツボを突いた処方箋である。また、これから迎える超高齢化社会に対する社会基盤整備にもなるのである。

 ここで、ある疑問を持つ人がいるかもしれない。医療・介護サービスの現状は、国庫的にも事業主体的にも深刻な赤字である。こうした施設やサービスを大幅に拡充すれば財政破綻を早めるだけではないのか、という疑問である。

 こうした疑問や反論は的外れである。

 要は、国民のカネを何に使うのかというのがこのイシューの本質である。成熟を迎えた今の日本では、国民のカネをダムや空港ではなく、医療や介護サービスの充実に使った方が、大きな経済効果が生まれる――シンプルな理屈である。そのカネを税金や社会保険料で徴収して国が病院や介護施設に支払うのか、利用者が直接可処分所得を使って支払うのかは、医療・介護事業が日本経済を活性化させるかどうかとは別問題である。

 その時の料 金の水準や公的負担の割合によって利用範囲や費用負担の按分は変わってくる。だが、国民の経済活動として成り立つかどうかとは別問題である。


 どうもピンと来ません。

 次の貿易赤字の定着は 経済危機後の「ニューノーマル」の表れ (要登録 ダイヤモンド・オンライン 2012年1月26日 野口悠紀雄)は、前回の日本が経済成長するには? 〜輸出、製造業信仰からの脱却〜に近いテーマで、これがいっしょに入れれば良かったと思ったものです。

「ニューノーマル」という言葉は、アメリカの債券運用会社ピムコのCEOであるモハメド・エラリアンが提唱したとされるもので、「世界経済は、リーマンショックから立ち直っても、危機前の姿に戻るのではなく、別物になる」という意味である。日本経済もその例外ではあり得ない。

 実際、仮に原子力への依存を今後低めるのであれば、エネルギー計画の枠内だけでは、その目的は達成できない。自然エネルギーの比重を高めることは必要であろうが、量的に見てそれだけでエネルギーの需給均衡を達成できるはずはない。脱原発の主張は、それを実現するための具体策を欠いているのである。

 この問題は、産業構造を変えることによってしか実現できない。その際の中心は製造業である。なぜなら、製造業は電力多使用産業だからだ。

 国民経済計算付表の「経済活動別財貨・サービス投入表」(U表)を用いて、1単位の付加価値(雇用者報酬と営業余剰)に要する電気・ガス・水道の投入について製造業と金融・保険業を比べると、前者は後者の10.4倍である。したがって、「産業構造を変えて電力需要を 抑制する」とは、製造業の比率を低め、その代わりに金融業のような生産性の高いサービス産業の比率を高めることである。「脱原発」と言われるが、脱工業化なしの脱原発はあり得ないのだ。

 製造業の比率が低下すれば、電力需要も減る。したがって燃料輸入も減る。1990年代以降、「輸出産業にとっていいことは日本にとっていいことだ」と考えられてきた。しかし、もはやそうは言えなくなる。

 そして、日本国内だけの調整でこの問題を処理することは不可能である。すでに企業は、生産拠点を海外に移すことで対応を始めている。この動きを止めることはできない。日本の製造業は、国内ではなく国外で生産を行なう時代になった。


中国工業化による日本製品の優位性低下は、円安政策によって日本の輸出産業の競争力を見かけ上高めることによって隠蔽できた。原油価格上昇は、90年代に原子力の比重が高まっていたので隠蔽できた。

 ところが、円安依存の輸出戦略は、経済危機で崩壊した。そして、原子力への依存が震災で突き崩された。円安も原子力も、日本にとっての本当の解決策ではないことがわかったのである。


フェイエットビル痛みセンターフェイエットヴィル、ノースカロライナ州

 したがって、今必要とされるのは、もともと潜在的には必要であった構造に日本経済を変えることだ。これまでの産業構造を維持するのでなく、それを根本から転換させることが必要だ。

 いまの条件が「ニューノーマル」なのである。これまでが異常だった。それを前提として経済を考えるべきである。


 もちろん、海外移転は問題も引き起こす。それは国内の雇用を減らすことだ。日本経済は、この問題に正面から向き合う必要がある。

 空洞化の勧め的なところがありますね。

 あっ、さっきも出てきた波頭亮さんがまだありました。

 成長に必要なのは経済の新陳代謝〜公共事業でも金融緩和でもない 米国は市場原理、欧州はEU統合で技術係数を高めた(要登録 日経ビジネスオンライン 波頭 亮 2012年2月10日)という記事。

 勢いを失い始めた90年代後半以降、米、欧はそれぞれ経済の「技術係数」を上げるための大きなチャレンジを行ってきた。

 本連載の第1回目で示したように、経済成長率は「△投入資本量」「△投入労働量」「△技術係数」の合計で決まる。「投入資本量」に関しては、日米欧ともに様々な金融技術を駆使して"信用"を創り出し、経済拡大を図ってきた。ある時は政府と金融機関がそれぞれに、ある時は一体となって。しかし2000年代後半になって、そのやり方が限界に達した。逆に過膨張した信用が国民経済の土台を揺るがしている。前回までに指摘した通りである。

 「投入労働量」に関しては、移民を受け入れることで出生率の低下を補っているものの、ベビーブーマーが経済を牽引していた70〜80年代のような人口ボーナ スは望むべくもない。日本なぞ、高齢化と並行して絶対人口数の減少という危機的な状況が進行中である。

 つまり先進国が今後も経済成長を続けようとするのであれば、「技術係数」を向上させるしかない。これが、90年代後半以降の先進国の必然的条件なのである。


 実際、90年代以降アメリカとヨーロッパはそれぞれのやり方で技術係数を高めることにチャレンジし、それぞれ確かな成果を出してきたと言える。

 アメリカのやり方は「市場原理の徹底」である。よく知られているように、アメリカは市場メカニズムを最大限に尊重して企業の競争と淘汰を促進する方針をとっている。その結果、80〜90年代にはアメリカを代表する有力企業であったパンナム、クライスラーなど多くの伝統的企業が淘汰された。代わりにマイクロソフト、アマゾン、グーグルといった新しいリーディングカンパニーが台頭して、経済の活性化と成長に貢献している。

 比較的多数の移民を受け入れて人口増を図っていることと、市場メカニズムを徹底させて産業と企業の新陳代謝を促進することで、経済と社会の沈滞を防いでいるのだ。その結果、アメリカは90年代に5.5%、2000年代に3.9%と、日本と比べて明らかに高いパフォーマンスを実現し得た。この時期� �日本の平均成長率は、それぞれ4.3%、1.6%であった。

(中略)

 EU統合による関税の廃止や労働者移動の自由化、様々なルール・規制の統一に加えて、ユーロ導入による貨幣の共通化は、総人口5億人に及ぶ巨大な経済圏を出現させた。当然のことではあるが、個別の小規模な経済単位が多数存在する状態よりは、全体が一つの市場として統一ルール、統一通貨を使い、製品や人が自由に移動できる方が、圧倒的に経済効率が上がる。

 EU各国は市場メカニズム一辺倒のやり方とは一線を画した社会民主主義的な政治経済体制を敷いているため、国ごとの国民経済では経済効率の追求を徹底するのが難しい。この弱点を、ヨーロッパ27カ国を統合して巨大な経済圏を作り上げるという壮大なチャレンジで補ったのである。

 その結果は2000年代の成長率を見れば明らかである。90年 代の平均成長率が2.1%であったのに対して、2000年代の成長率は5.6%と大きく向上した。2000年代のアメリカの成長率が3.9%、日本が1.6%であるのと比べて、十分に大きな成果と言えよう。


 このように、成熟化しつつある先進国経済と言えども、"技術係数"を高めて成長率を改善することは十分に可能なのである。

 市場メカニズムを徹底させるアメリカのやり方も、広域経済圏を確立しルールを統合するヨーロッパのやり方も、その本質は"新陳代謝"である。アメリカの市場メカニズムの徹底による優勝劣敗は、生産性の高い企業と産業が、生産性が低いままの旧態依然とした企業と産業を退場させて、国民経済全体の効率を向上させる。

 ヨーロッパのEU統合においても、EU加盟国の中の産業ごと、地域ごとに、最も生産性の高い企業にシェアを収斂させることで地域経済の効率を高めた。当然、そのプロセスにおいて、それまでの個別経済圏ならば生き延びることができた限界企業や限界産業は淘汰された。� ��まり、地域経済ごとに、生産性の高い企業と産業に収斂するという新陳代謝が起きたのである。

(中略)

 日本はどうか。


ニュージャージー州の医療減量

 自動車、家電・エレクトロニクスという主力産業・企業の顔触れは80年代からほとんど変わってない。EU統合に類するような構造改革も起きていない。


 「技術係数」ってのは効率的なものですかね?日本人はダラダラ働くだけで、ちっとも優秀じゃないのかもしれません。

 あと、最後の「主力産業・企業の顔触れは80年代からほとんど変わってない」は、私がいつも言っている新しい企業・産業叩きのある日本の風潮もあるのでは?これやらないだけで、かなり成長が違うと思うんですけどね。

 エコカー減税にしても、エコポイントにしても、成長しない従来型の産業ばかりを一生懸命守る制度と言えますし、どうも眼を向けるのは旧勢力ばかりという気がします。

 ここから視点を変えて、米国で盛り上がる格差議論から学ぶこと 成長と社会的平等をいかに実現するか(2011年12月2日 岸 博幸 ダイヤモンド・オンライン、登録要)という話。

貧富の格差が拡大する中、社会正義の観点のみならず、経済への影響という観点からも、格差の拡大を懸念する声が大きくなっています。かつては経済学者の多くが、成長と社会的平等のどちらか一方の実現に力点を置いていましたが、成長と社会的平等は密接にリンクしているという考えが台頭しつつあるのです。

 これは、今や労働力の質が経済の繁栄のために重要であり、それが国の教育水準に左右されることから、格差が小さい社会ほど、国民の多くが十分な教育を受けられるので、成長のために望ましいという考え方に基づいています。

 今年出されたIMFのレポートでも、富裕層と貧困層の格差が小さい社会ほど、長期にわたる景気拡大が可能となり、格差が拡大傾向にある米国では、今後の景気拡大は1960年代の1/ 3程度の長さしか持続しないだろうと述べています。実際、戦後の米国の平均的な景気拡大期間は4.8年ですが、現在の景気拡大はまだ27ヵ月しか経っていないのに、来年早々には景気後退に陥る可能性が高いと言われています。

 また、シカゴ大学ビジネススクールのラジャン教授は、格差が大きい社会ほど貧困層は将来の所得増大を期待しなくなるので、政策的には再配分政策が志向されるようになり、また政治的に不安定となる結果、外的ショックへの対応として成長維持のために必要な厳しい政策が取れなくなると述べています。


 一瞬へーと思ったのですけど、格差が大きい社会が成長して格差が小さい社会になる、また逆に格差が小さい社会が成長して格差が大きい社会になるというのは、そもそも大した影響力ではないからなのでは?とも思います。

 ただ、母数が全然違うと優秀な人を生み出す可能性もまた大きく違いますから、教育が一部のときとほぼ全部のときの違いは、大きいと思います。

 教育水準に関しては、優秀な子を逃さないようにするために、義務教育のあたりはしっかり支援して、高等教育はメリハリを効かせて支援という政策が良いと思います。

 他にこういうのも。

 こうした議論の延長で、米国では、格差は株価にも影響すると言われ出しています。経済的な正義が実現されていないと、金融市場では一部の人しか儲けられないという認識が広がり、多くの潜在的投資家が市場から離れてしまうという認識です。実際、大恐慌のときにそのような動きがあったため、ダウジョーンズ工業平均株価は1929年のピーク値335.95を、1954年まで回復できなかったとのことです。

 従って、所得格差の是正に取り組まないと、1929年の大恐慌や現在のような経済危機が、繰り返し起きることになると主張されています。


 格差是正はもちろんやるべきですけど、その理由としてはどれもイマイチ力がない気がします。

 で、これに多少関連する格差の話があった公的債務と世代間格差の改善は消費を活性化させる 財政再建は経済成長を鈍らせるか?(要登録 日経ビジネスオンライン 2012年3月8日 小黒一正)を最後に。

 財政再建を考える際、常に議論になるのが、それが経済に与える影響である。その関係で重要な視点は、拙著『日本破綻を防ぐ2つのプラン』(日経プレミアシリーズ)で紹介した「ロゴフ仮説」である。ロゴフ仮説は、ハーバード大学のロゴフ教授らが指摘したもので、公的債務の過剰な増大は経済成長を抑制するというものである。

 具体的には、公的債務(対GDP)が90%を超すと、そうでない場合と比較して、その国の成長力は平均して約4%も低下する、とする。200年間に及ぶ44カ国の財政データを緻密に調査して導き出した結果である。

 この立場に立つと、財政再建による公的債務残高の縮減は、むしろ、経済成長を促進する可能性を持つ。


 「過剰な増大は」なのですから、現在日本の対GDP公的債務がどれくらいか?によって違ってきます。不親切なことにこれが書いていなかったんですよね。

 あと、90%を超すと「約4%も低下する」ってのは、果たして大きいのかな?と思いましたが、考えてみると大きいですね。


 先にこちらを調べましょう。

 図録経済成長率の推移(日本)によると、過去の実質GDP成長率は以下のとおりです。

実質GDP成長率(2006年12月1日改定)

1995年度 2.5
1996年度 2.9
1997年度 0
1998年度 -1.5
1999年度 0.7
2000年度 2.6
2001年度 -0.8
2002年度 1.1
2003年度 2.1
2004年度 2
2005年度 2.4

 4%違えばえらい違いで、マイナスだった年が逆転することもあり得ます。

 で、問題は日本の対GDP公的債務ですが、これは債務残高の国際比較(対GDP比) : 財務省から引用します。

暦年 日本
1995 86.2
1996 93.8
1997 100.5
1998 113.2
1999 127
2000 135.4
2001 143.7
2002 152.3
2003 158
2004 165.5
2005 175.3
2006 172.1
2007 167
2008 174.1
2009 194.1
2010 199.7
2011 212.7

 1996年の時点で90%を超え、今は90%どころじゃなく、213%という破格の数字。

 「債務」と書いているところと「債務残高」と書いているところがあって、よくわからなかったのですけど、たぶん余裕でアウトなんじゃないかなぁ?

 でも、これ、

公的債務の過剰な増大 → 経済成長を抑制

 ではなくて、

経済成長が鈍る → 公的債務の過剰な増大

 だと考えられませんか?

 私は財政再建は進めるべきだと考えているので有利になる仮説ですが、ちょっと疑問が残ります。

 ちなみに債務残高の国際比較(対GDP比) : 財務省では、最新でイタリアが129%、アメリカ、フランスが100%前後で90%オーバー、イギリス、ドイツ、カナダが85〜90%の間というところで、日本ほど酷くはないですけど、みな基準の90%付近にいます。

 同様に、世代間格差の改善も、経済成長を促進する効果を持つ。この理解には、「世代会計」から推計される「世代間不均衡」という指標と、経済成長率の関係を見るのがよい(図表1)。

 この「世代間不均衡」は、世代会計で「純負担」を推計し、「将来世代の純負担が(推計時点での)0歳児の何倍か」を示したものである(中略)

 日本を例に説明しよう。図表1において日本の世代間不均衡は約170%を示している。世代間不均衡の値が大きいほど世代間格差は大きくなる。日本がこの図表の最も右側にあるのは、過重な負担が将来世代に押し付けられているからにほかならない――日本の公的債務残高(対GDP)は先進国中で最悪。さらに、「『暗黙の債務』の推計から議論を始めよ」の回で説明した「暗黙の債務」も将来世代にのしかかっている。そして、現行の政策により将来世代は(1995年時点における)0歳児の1.7倍もの純負担、つまり、ものすごい超過負担を押し付けられていることになる。


 図の中心にある国が多いのですが、日本は一番右側で世代間不均衡は14カ国の中で抜けてトップ、平均GDP成長率は2番目に不均衡な国との最下位争いというところ。相関性が見えます。
老後の生活のために一定の金額が必要であるにもかかわらず、老後に受け取れる年金が大幅に削減されると予測している場合、この個人が合理的であれば、老後のために貯蓄を増やすはずである。

 ということで、こちらは理論的にわかります。

 貯蓄なんかできないよって若い人もいるでしょうけど、それは無駄遣いできないということで、経済成長を抑えているという事実は変わりありません。

 ここらへんは

  ■年金などの社会保障問題1 〜子供たちの未来を奪っているのは老人世代〜
  ■年金などの社会保障問題2 〜橋下徹市長発言「老人より現役、将来世代に税を」〜
  ■年代別個人金融資産残高 〜若者がお金を使わないから不況は嘘?〜

 が関連記事です。

 関連
  ■日本が経済成長するには? 〜輸出、製造業信仰からの脱却〜
  ■「輸出立国日本はもう無理」論 〜製造業はダメ〜
  ■円高のメリット 〜「円高は良いこと」論の詰め合わせ〜
  ■その他の経済について書いた記事



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